「ちよりさん」は母とは真逆のひとだった。

初めて紹介された時、そこは「我留舎」という名の狭っ苦しい居酒屋だったけど、ちよりさんは美味しそうにビールを飲んでいた。

母はアレルギーもあってアルコールは一切受け付けなかったから、そんなちよりさんを見て何だか、はすっぱなひとに映った。


どうしてこの人だったんだろう。

ぼんやり、席を立ったちよりさんを目で追いかける。

カウンターの中に男の人がひとり。

ちよりさんはその人と一言二言話して、カウンターに立てかけてあったメニューを持ってきた。


「鶏の唐揚げを食べよう、おいしいよ」

私はメニューを一瞥して、ちよりさんとは目を合わさずに視線を窓の外に移した。