亜美は、高校を一年早く卒業して地元の信用金庫に就職していた。最近は周りの大人達に比べると幼く感じる明にイライラすることが多くなっていた。

「もしもし、何?電話した?」
「あ、亜美、お願いがあるんだけど」
「何よ?」
「今から出てこれない?」
「今、帰ってきたばっかりだよ。残業で疲れてるしさ」
「すげー困ってんだよ」
「分かった。国道沿いのファミレスに今から行くよ」
明の困った声を聞くと、どんな無理でも聞いてしまう。

「亜美、ごめん、お金を貸して欲しいんだ」明は、亜美が座るとオーダーもさせずに拝み始めた。
「やっぱり」亜美は心の中で舌打ちしながら財布に手をかけた。
「いや、50万貸して欲しいんだ」明は、右手を大きく開いて「5」を表した。人に金を借りるにしては、勢いがあるのも、この男の人の良さか。
「なんで?そんなお金ないよ」さすがに恋する女と言っても、まだ二十歳になったばかりの亜美には超がつく程の大金。

「実はパチンコ屋で知り合ったヤツに金を借りて・・気がついたら・・でも借りたのは30万。利息がついて、明日までに50万を帰さないとならないんだよ」なんだか、最初の声からだんだん元気になって明るく話始めたのは、亜美がなんとかしてくれるのだと信じているからだ。

「なんで、そんなに利息が付くのよ!法律違反じゃない。そんなの払う必要ないよ!」亜美はバカみたいに素直な明に腹がたつやら悲しいやら、さらに愛しいやらと複雑な気持ちで叫んだ。

「分かった、私がそいつに会って話をつける。」亜美は思わず言っていた。何故だか、そうしなければならない気がしたのだ。

人は、ときどき自分でも何でそんなことを言ったのか分からないうちに言っていることがある。それは、だいたいがアクマの仕事だと思って頂きたい。しかし、これには深い意味があると思って従うしかないのだ。

亜美は、翌日の仕事が終わると憂欝な気持ちで待ち合わせの場所に向かった。駅前の喫茶店には、すでに明と少し恐そうだが、普通の背広姿の男が待っていた。それに、意外と若い。
「私、こういう者です。」男は丁寧に亜美に名刺を渡した。