「おい、人が真面目に話してやっているときに、ちゃんと聞いているのか!?」
 急に不機嫌になった少年の言葉にはっとして、朱音は申し訳なさそうに頭を下げた。
「んっとに、お前って女は・・・。これじゃあルイも苦労してただろうな」
 こうしてがみがみとロランに小言を言われるのは、朱音自身久しぶりのことで、とても新鮮なことだった。そして、彼の言うように、自分の年齢なんかを気にしていることが、あまりにちっぽけなことのようにも思えてきた。
今では、ここでのフェルデン無しでの暮らしはもう考えられない。正直に言えば、フェルデンともう二度と離ればなれになりたくないと朱音は感じていた。次に彼を失ったときは、今度こそ気がおかしくなってしまうかもしれないとまで考えるまでだ。
 この時、既に朱音の心の中は決まっていた。
 もう、誰も失いたくない。
 失う前に、あの若く賢い王の隣で、今度は自分から大切な人達を守ってゆきたい、と・・・。
 ロランはそんな朱音の姿を目にしながら、そっと握りしめていたペンダントを懐へしまった。
 遠く離れていた対のペンダントが今、再び同じ場所へと戻ってきた。その重みを感じながら、少年はこの異世界から来た一人の少女を今度こそ近くで見守ろうと静かに心に決めた。兄であるルイがそう決めたのと同じように・・・。