少年はイラついた調子でそれに返答する。
「まさか、断る気なんてないだろうな!? 陛下だぞ!? 王様だぞ!? 国王陛下に目を掛けて貰えることがどれだけ貴重且つ有り難いことなのか、お前わかって言っているのか!?」
 鼻息を荒くする少年に、朱音がしゅんとして俯く。
「うん・・・、そりゃあわかってるけどさ・・・」
 そんな朱音に、少年ははあともう一度溜息をついて付け足した。
「受けろ、アカネ。幸せになるべきだ、お前という女は」
 穏やかな口調の少年に、朱音はひどく安心感を覚えた。
「ん・・・」
 肉親を失ったことを知ったばかりのロランが、朱音に言い聞かせるような口調で続けた。
「お前はいろんなものを失いすぎた。このあたりで何か得ても罰はあたらないだろう・・・」
 ロランからは考えられもしない程優しいその目は、やはり朱音よりも何十年も年上の者のようだった。
 それに、朱音にはそれがルイの優しい眼差しと重なって見え、思わず呆けてまじまじと彼を見つめてしまう。
「それにだな、何よりフェルデン陛下に恥をかかせるなよ? お前みたいなド庶民の平凡な小娘に婚姻を申し込んだだけでも、陛下にとってはとんでもない不名誉なんだぞ」
 腕組みをして懇々と言い聞かせるルイそっくりな少年に、朱音はぼんやりとその表情を見つめ続けている。