しばらくして朱音がある程度落ち着いたところで、ロランは言った。
「お前が気に病むことなんてない。こう見えて僕たちはお前なんかよりも遙かに長く生きている。ルイもお前を守れたことに満足してる筈だ」
 半身を失ったとは信じられない程、少年の口調は落ち着いていた。
「って訳だ。そろそろ離れろ、馬鹿」
 突き放すような口調ではあるものの、それは明らかに照れ隠しであった。
「こんなところ、フェルデン陛下に見られでもしたら、僕はたちまち術師としての仕事を解任させられる」
 朱音がはたと涙を拭いながら少年を首を傾げて見返す。
「フェルデン陛下はお前に婚姻を申し込まれたのだろう?」
 それを聞いた途端、ぼっと顔を真っ赤にした朱音は口をぱくぱくさせて声を上擦らせた。
「な、何でそのこと・・・!」
 呆れたようにロランが溜息を吐く。
「当たり前だろう。一国の王がたかがそのへんの小娘に婚姻を申し込むなんてこと、噂にならない訳がないだろう」
 朱音は、自分の身体で覚醒して数日した後に起こった出来事を思い出して煙が出そうな程に顔を紅潮させていた。