「ユリ、これは夢か・・・?」

 呆けたままのフェルデンに、ユリウスは「いいえ、現実です」と小さく答えた。本来なら、フェルデンがここへ辿り着くより先に報告してしまいたかったというのに・・・。
 ちょこんと王室の床に座っている黒髪の少女は、きょとりとしてフェルデンとユリウスの方を見つめていた。
「アカネ!!!」
 気づくと、フェルデンは周囲の全てを忘れてその少女に駆け寄り、強く抱きしめていた。
 懐かしいチチルの甘い香りがふわりとフェルデンの鼻腔をくすぐる。
「フェルデン・・・?」
 強く抱き寄せられたまま、少女は驚き目を丸くしている。
「・・・・・・」
 抱きしめたまま、何の反応も返さないフェルデンに、少女は思わず呻いた。
「フェルデン、痛いよ」
「アカネ・・・、会いたかった・・・!」
 朱音は逞しい青年の腕の温もりの中で、静かに目を閉じ、そろりとその背に腕を回す。
 長身の彼が、床に膝をつき服が汚れることも厭わずに彼女を抱きしめたまま動こうとしなかった。
「わたしも・・・」
 朱音は頬を伝う熱いものに気付いてはいなかった。