「分かってるよ。これっぽっちのチンケな紙を、あのフェルデンとかいう新国王に届けりゃいいんだろ?」
 ファウストはぴょんと飛び上がるようにして立ち上がると、ひょいと中庭の壁に飛び乗った。
「見てな。一週間でやってやるぜ」
 ふんとアザエルは何事もなかったかのように中庭の通路をすたすたと立ち去ってゆく。
 この日、ファウストはサンタシに向けて遣いとして出立したのである。

 クロウは漆黒の服に身を包み、王室の椅子に腰掛けた。嘗てはここで父ルシファーがゴーディアの国政を維持し続けていたのだ。
 父の亡骸はフレゴリーの手により元通りに修復され、また、元の棺に眠っている。しかし、義理の母ベリアルは、あの日以来行方がわからないままになっていた。
 ザルティスの神兵は一掃され、残った者もゴーディアの重罪人用の牢に幽閉されている。
 アザエルは軍事指令官の地位を退き、主宰地位に就任。その代わりにライシェル・ギーが指令官の地位に、そして、メフィス・ギュンツブルクは副司令官から指令官補佐へと昇格。更に、黒の騎士団唯一の女騎士タリアが副司令官に収まった。
 近く、貴族中心の国政であったゴーディアを、クロウは身分に関係なく能力のある者が自由に参画できる政治体制に切り替えてゆくつもりでいる。そう、ヴィクトル王が成そうとしていた事のように。そしてその皮切りに、まずは誰もが入学できる能力別の学校をいくつか創設させているところである。