スキュラを低空飛行させると、フェルデンは剣で馬上の騎士どもを薙ぎ払った。主を失った馬の背に、飛び乗ると、フェルデンは叫んだ。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
 剣を一振りすると、周囲十メートル圏内にいる騎士がその斬撃で全て吹き飛んだ。
 予想以上の魔光石の威力に、フェルデン自身も驚きを隠せなかったが、それはザルティスの神兵達も同じで、とてつもない力を持った者の出現に、皆が混乱を始めたようであった。
 しかし、ここは一歩も退くことのできないフェルデン。馬を駆け巡らせては片っ端から神兵達を薙ぎ倒してゆく。何千といる兵を相手に、それはまるで限の無いものにも見えた。

 さすがのフェルデンにも、少々疲労が見え始めた頃、突然後方で神兵達が馬から大量に転げ落ちるのが見えた。
(何だ・・・!?)
 剣を振るう手を止めないまま、じっと目を凝らして見ると、碧く美しい髪をたなびかせた男が、静かにそこに立っていた。
「アザエル・・・!」
 何も表情を浮かべないのは相変わらずで、感情の無い声で魔王の側近は言った。
「やっと少しは使える男になったか、フェルデン・フォン・ヴォルティーユ」
 神兵達はアザエルの姿を見た途端、蒼白になり、すっかり落ち着きを無くしていた。
 アザエルはそんな神兵達に目もくれず、水針を無数に放つ。いや、すでにそれは水針ではなく、新兵達の血を吸った血の武器である。赤黒く鋭く尖ったそれは、相手の動きを止める為の釘や針という生易しいものではなく、短剣並の威力を持った凶器である。