もがくファウストの口を朱音は無理矢理閉じさせると、それが完全に喉を通過するまで離さなかった。
「やっとわかった気がする。魔王ルシファーがどうして世界を我が物にしようとしなかったのか・・・。どうして国の力だけでゴーディアを守ろうとしたのか・・・」
 褐色のファウストの喉がこくりと動いたと同時、朱音はゆっくりとその手を離した。手首の傷はすでに塞がりつつある。
「この世界を、彼は誰より愛してたんだ・・・。だからこそ魔力でその全てを手に入れようとはしなかった」
 焼け付く喉にばたばたとのた打ち回るファウストの身体の隣に、朱音自身も力尽きたようにぱたりと倒れ込んだ。

「・・・眠い・・・」
 ぼそりと溢したその声の隣で、ファウストの苦しみが和らいだのか降りしきる雨音以外の静寂が訪れた。どうやら彼は意識を手放してしまったらしい。
 朱音は、もうこれ以上目を開けていられそうになかった。
(ごめんね、フェルデン・・・。最後まで貴方の無事を見守りたかったのに・・・)
 遠くの方で闘いの気配が感じ取れはしたが、もう指一本たりとも動かすのが億劫で、朱音はゆっくりと瞳を閉じた。