その直後、どうっとファウストが地面に倒れ込んだ。
 顔に強い衝撃を受けた直後、痛みとともに口腔内に鉄の味が広がる。
「どうだ、新崎道場必殺回し蹴り!」
 どうしてこんな緊迫した状況で、空手の技をファウストにお見舞いしようと思ったのかと朱音自身不思議に思った。けれど、なぜだかこの歳若い青年に、朱音の自身の渾身の一発を入れてやりたかったのだ。
 ファウスト自身、まさか、朱音に蹴りを喰らわされるとは思ってもいなかった。
 倒れたままのファウストを真上から見下ろすと、朱音は言った。
「効いたでしょ? まともに入れば暫くは脳震盪で立てなくなるんだよね」
 口元の血を拭いながら、ファウストは美しい少年王姿の朱音を見上げる。
「・・・何をする気だ」
「言ったでしょう、わたしはアンタを許さないって」
 朱音は胸元にしまっていたルイのペンダント型のナイフを取り出すと、自らの手首にその刃を滑らせた。
 痛みに眉を顰(しか)めるが、すぐその傷が癒えることを朱音はよく知っている。
 ファウストは、危険を感じ取り、起き上がろうと試みるが朱音はその青年の胸に馬乗りになってそれを阻止した。
「くそっ!!」
 身動きを完全に封じられてしまったファウストは、抉じ開けられた唇に、雨水とともに生暖かい血液が流れ込んでくるのを感じた。
(やめろ!!!!)