ファウストは唇を噛み締めると、街の炎がみるみる雨によって鎮火される様子を見つめた。
 頭上で回転しながら炎弾を放っていた炎の塊も、湿気には勝てず小さくなって消えていく。手に創り出していた炎の短剣も、すっかり威力をなくしてほとんど役に立たなくなっていた。
「殺せ」
 尚、手を離そうとしない朱音に、ファウストは吐き捨てるように言った。
「嫌だ」
 無言のまま見つめる朱音の目から視線を逸らすことができず、ファウストは身体を捻って両の足で朱音の身体に蹴りを入れようとした。
 だが、朱音の身体を覆う黒い気体が、柔らかなクッションのようにその衝撃を包み込み、それさえもかなわない。
 ファウストは、まだ生ぬるいことを言う朱音に、苛立ちを隠せなかった。
「忠告しておくが、今ここでおれを殺さなけりゃ、命ある限りてめぇを狙い続けるし、この世の全てが灰になるまで燃やし尽くすぜ」
「なんか勘違いしてるみたいだけど、わたしはあんたを簡単には許さない。死んで簡単に今までの罪から解放されるなんて考えてたら、大間違いだからね」
 そう言って突然掴まれていた手を突き放されて、ファウストがよろめいた瞬間、朱音の身体がふわりと宙を舞った。
「!!!」