この男よりも、指令官補佐役を務めるライシェル・ギーが、全てにおいて勝っている上、地位的なものや信頼できる点からすれば、クロウの側近として相応しいのはライシェルだということは明らかだ。それなのに、その彼を差し置いてまでこのヘロルドは今の地位に就いた。これは、どう考えても裏があるとしか言いようが無い。
 ヘロルドは鋭いアザエルの読みにびくつき、焦りを覚えていた。一刻も早く叩き伏せてしまわなければ、自分の弱点を見抜かれてしまうのでは、と恐れていた。
「くそう!!」
 ヘロルドは、唾を撒き散らしながら、悪態をつくと、再び節張った手を構えた。
 直後、巻き起こった強風が渦を巻き始める。それがつい数刻前、王都を飲み込もうとしていた巨大竜巻と同様のものだということは、アザエルにもわかった。そして、それをみすみす作らせてしまえば、厄介なことになり兼ねないということも。
 アザエルは、兎に角ヘロルドの風を操る手元への集中を削ぐ為、先程自身の腕に巻きつけるようにして創り上げていた水の蛇を再形成した。凶暴な蛇は、すぐさま邪魔者を排除する為に勢いよく醜悪な男へと飛び掛かる。
『ビチャッ!!』
 しかしそれは、ヘロルドが放った風の刃にて叩き切られてしまう。
 落とされた蛇の頭は水滴となって地面へと落下していったが、直後には再び蒸気となって元の蛇の本体へと吸収され、すぐに元通りの姿へと戻る。そして、剣のように鋭く尖った蛇の頭は、今度は三つに分かれて首をもたげる。