ヘロルドには、高い戦闘力も経験も技術も無い。しかし、厄介なことに、それに見合わない程の魔力を持っていた。
(不可解だ・・・。なぜこれ程に未熟な男にこれ程の魔力が備わっている・・・)
 腑に落ちず、アザエルは碧い目を静かに細め、ヘロルドの姿を見つめた。
「アザエルよ。このような攻撃が俺に通用すると思っておるのか?」
 ヘロルドの卑下た笑みに、不快さを露わにし、アザエルは珍しく口を開いた。
「貴様、それ程の魔力を持ちながら、なぜ今まで軍で名声を得なかった」
 実際、最高司令官の地位にあった時でさえ、この男の姿は軍で見たことは無かった。ただ、たかが元老院中の老人の一人息子ということもあり、魔城で数度見かけた程度である。
 今となっては、この男が軍に所属していたのかどうかも定かではない。もしいたとすれば、軍の最下層周辺にいたとしか考えられない。
 そう問われた瞬間、急に顔色の変わったヘロルドは、それを誤魔化そうとするかのように、口をへの字に曲げ、押し黙った。
 アザエルはふと考えを巡らせる。魔城で最後にこの男を見かけたのはいつだったかと・・・。
 思い起こせば、アザエルが罪人として魔城を出るまでの向こう数年間はこの男を魔城で見かけていなかったようにも思える。
「いや・・・。軍人でさえないという訳か・・・」
 そうなれば、ヘロルドは金と権力を傘に生きる、卑怯で脆弱なただの貴族階級の中の一人ということになる。そんなたかが貴族階級の無能な男が、数年の空白の後、クロウの復活とルシファー王の死去が知れた途端突如として帰国。そしてうまい具合にアザエルの後釜として最高指令官という地位におさまった。