「なんの真似だ、ヘロルド」
 既にアザエルの口からは敬称さえも消え去っている。
「無礼であるぞ、たかが罪人ごとき身分の者が」
 鉤のような鼻に幾筋もの皺を寄せ、忌々しげにアザエルを睨んだ。
「無礼だと・・・? 一体なんの冗談だ。貴様のような卑しい反逆者に、なぜわたしが敬意を払わねばならぬ」
 確かに、アザエルにとっては、ゴーディアの王であるクロウを陥れ、王座を乗っ取ろうとしているこの男は、反逆者以外の何者でもなかった。
「何だと・・・!? さっきから聞いておれば、よくも・・・! この死に損ない目が!」
 ヘロルドは怒りを露にし、ぶるぶると骨ばった拳を握り締めた。
「まあ、反逆者を排除するのにちょうどいい機会だ。」
 アザエルは冷淡な微笑を浮かべると、手に水の剣を出現させる。
 驚きで目を見開いたヘロルドは、無意識に一歩後ろへ下がり、ごくりと鍔を飲み込んだ。
 しかし、懐に仕舞ってある重みに気付き、自らをいきり立たせた。
(何を怯えている・・・! わたしにはこれがあるではないか・・・! そうだ、わたしとて、この石さえあれば、奴と同等の魔力を携えていることに変わりは無いではないか・・・! わたしは最高司令官という地位に相応しい魔力を持っているのだ・・・!!)
 ヘロルドはくくくっと噛み殺した笑みを溢すと、鋭い眼光を放つ嫌らしい目をアザエルに向けた。
「何が可笑しい」