曲がった背に出っ張った頬骨。何度見ても虫唾の走るその姿に、朱音は思わず身震いする。
(あいつ、白亜城のあの高さから、落下して死んだんじゃなかったの・・・!?)
 朱音は状況を飲み込めず、眉を顰めた。あの時、確かにアザエルの出現させた水流にのまれ、城の下へと押し流されていったヘロルドの姿を朱音は目にしていたのだ。
「クロウ、あの男はアザエルに任せ、俺たちはファウストを追うぞ」
 フェルデンの声に我に戻された朱音は、こくりと頷いた。
『グルルル』
 軽やかにスキュラが朱音達の跨る馬の前に舞い降りた。まだ幼い飛竜は、主人がこの場にやってくることを心待ちにしていたかのように、大きくぐりぐりした目を嬉しそうに朱音へと向けた。その背は、もう今すぐにでも乗せられるようにと差し出されている。
「スキュラ、わたしが来るまで、よく今までファウストを足止めしてくれていたね。さ、今からもう一飛びするよ」
 馬から飛び降りた朱音は今にも目蓋の降りてきそうな眠い目をこすりながら、光沢のあるスキュラの背の鱗を優しく一撫でした。
「フェルデン、貴方のこの国を、きっと守ろうね!!」
 朱音はフェルデンをスキュラの背に誘った。
 幼い飛竜の子は羽を広げ、ぐんと空へと舞い上がった。二人の若き王をその背に乗せて・・・。