ふと朱音がそういう考えを掠めた途端、二人を乗せたゾーンの横を、前から物凄い勢いで通過し落下していく“何か”を視界の端で捉えた。それは、二人を通り越した後に鈍い轟音を立てて民家の屋根に激突していった。
「な、なんだ・・・?」
 白亜城に向けて飛び続けるゾーンの上で、思わず二人は後方を振り返った。
 ”何か”が落下した民家の屋根は、巨大な穴を空け、その縁は焼け焦げちりちりと燃え上がっている。
「今、お城の方から飛んで・・・」
 朱音がそう口を開きかけた途端、今度ははっきりと前方から赤黒い塊がこちらを目掛けてやってくるのが見えた。
「まただ。今度はさっきのよりもでかい!」
『ビュウウウウウウウ』と唸り声を上げながら接近するその玉の軌跡には、巻き上げた黒っぽい煙がもくもくと残されている。
「まずい! 高度を下げさせろ!」
 フェルデンの声で我に戻り、朱音はゾーンの禿げ上がった頭を強引に下方へ押し下げた。
 急に頭を押し下げられたゾーンは驚いて『びゃっ』と耳障りな鳴き声を上げたが、お蔭で僅かに高度が下がった。
 その瞬間、『ビュウウウウウウ』と、凄まじい熱を放ちながらすぐ頭上を“何か”が通り過ぎる音がしたかと思うと、すぐさま近くの街路地に落下していった。
 まさに危機一髪だった。
 二人はそのままゾーンを旋回させ、落下した“何か”を上から見下ろした。
 すると、深く地面に食い込み、未だ赤く黒く燻り続けている“何か”は、地を焦がし煙を巻き上げている。