いくら今は違うとは言え、やはり魔王ルシファーの側近だったことには変わりはない。
「ア、アザエル閣下・・・、そこをどいてください」
 冷たく碧い目で兵士達を見やると、アザエルは言った。
「お前たちは一体誰に仕えている。その後ろにいる小汚い男か? それともクロウ陛下か?」
 アザエルの圧倒的な威圧感に、兵士達はぶるりと身震いする。
「ク、クロウ国王陛下です、閣下・・・!」
 もう上官ではないというのに、兵士達は無意識にそう答えていた。
「な、何をしておる! もう奴は貴様らの上官などではない! まとめて切り殺すのだ!!」
 その声ではっと我に返った兵士達は、震える手で剣の柄を握り締めると、一斉にアザエルに切り掛かっていった。
「愚かな・・・」
 アザエルの手には、水を圧縮してつくり上げた剣が瞬時に現れた。
 今宵は、アザエルの水の魔力が一層強まる豪雨だ。
 流れるような動きで、アザエルは水の剣を振るった。
「な、何故だ!? 確か、元老院どもが魔力を封じる手枷を嵌めた筈っ・・・!」
 ぼとりと切断された兵士の腕が足元に転がり、ヘロルドは真っ青になってひっと声を上げた。
 どうゆう訳か、封じられている筈のアザエルの魔力は全開で、情け容赦のない攻撃はゴーディア兵達の恐怖心を呼び起こした。
「当てが外れて残念ですね、ヘロルド閣下」
 冷笑を浮かべ、アザエルは一歩、また一歩とヘロルドに歩み寄って行く。
「ええい、寄るな! こ、この反逆者めが!」
 ヘロルドは蛇に睨まれた蛙のようにじりじりと後退していく。
 足元には、身体の各部位がバラバラに切断された元兵士の肉塊と血溜まりができている。
「その言葉、そっくりそのまま貴殿にお返ししよう」
 凍りつくような碧い目に見据えられ、ヘロルドは額から嫌な汗が噴き出すのを感じた。
「勘違いするな。わたしはこの愚王に仕えている訳ではない。全てはクロウ陛下の御意志だ」