夢で何度も見た、魔王ルシファーとそっくりな容貌。見る者全てを魅了するだろう神懸かったその姿は、まさしくクロウであった。
「ぼくは君が嫌いだった。だって、君はあまりに幸せな日々と、多くの愛に恵まれていたから」
 小さく首を傾げ、クロウは穏やかな口調でそうアカネに告げた。
「だけど、君は僕に、たくさんのものをくれた。情、愛・・・。僕がそれまで決して手に入れることのできなかったものたち・・・」
 朱音は、クロウによって優しく包み込むように触れられた手に、視線を落とした。
「こうしてあなたから会いにきたってことは、何か言いたいことがあるんじゃない・・・?」
 朱音だって馬鹿ではない、自分のことは自分自身が一番よくわかっている。
「ただ、僕はお礼が言いたかったんだ。そして、謝りたくて」
 こくりと頷くと、朱音はもう一度美しいクロウの黒曜石の瞳を見つめた。
「わたし、消えちゃうのね・・・?」
 悲しそうに微笑むと、クロウはぎゅっと朱音の手を握り締めた。
「ごめんね、アカネ。今の君は、魂が覚えていた残像ようなもの。肉体を離れて、長時間元の記憶を維持し続けることはできないんだ」
 朱音は微笑み返す。
「そっか・・・」
 予想通りの告知に、朱音は思いの外落ち着いていた。
「知ってたよ。だって、最近じゃ、あんなに大好きだった母さんや父さん、真咲の顔がよく思い出せないんだもん」
 朱音はクロウの手を握り返した。
「だけど、あともう少しだけ・・・、もう少しだけ助けて・・・。フェルデンを・・・、あの人をここで失う訳にはいかないんだもん」