『カシャン』
剣が地面に音を立てて落下していった。
ユリウスの左腕を生暖かい感触がたらりと伝っていく。
「なるほどね・・・。二番手の君じゃなくて、一度君の上官と手合わせしてみたかったよ」
ユリウスは痛みを感じることはなかった。ただ、痺れたように腕が麻痺し、馬の名綱を握っていることはできない。霞む目で、ぱたりと静かに馬の背に身体を預けるようにして気を失ってしまった。
「ユリウス!!」
二人の一騎打ちを目にしたフェルデンが、他の兵を押し退けるようにして駆けつけたが、小柄の騎士は愛馬の背で既に意識を手放していた。
『ドサ・・・』
すぐ脇で、何かが地面に落下して崩れ落ちた。
地面に仰向けに横たわるそれは、赤茶色の眼を僅かに開いた、騎士としては華奢な身躯の青年であった。頭上には落ちた拍子に脱げた甲が転がり、それには濃い黒翼の紋章が刻まれている。
息はまだある様子だが、その口の端からつうと一筋の血が流れ落ちている。腹部を見ると、鎧を突き破って切り付けた剣痕が認められ、その隙間から赤い血液が流れ出していた。
(ユリウスのオクスを受けたのか・・・。しかし、あの攻撃を真っ向から受けて即死しないとは・・・)
ユリウスの突きは、師である強靭なディートハルトの力強い攻撃に、唯一力で対抗できる技であった。あの突きがまともに入れば、どんな頑丈な鎧をも簡単に打ち砕き、人の肉や骨などいとも簡単に突き破ってしまう。
その突きを、この華奢なゴーディアの騎士が受け止めたことに、フェルデンは驚かざるをえなかった。


