「さあてな・・・。そうさな、この林の奥に、昔っから神々が宿るという言い伝えのある泉がある。そこへ行けば、なにかよいお告げが貰えるかもしれんよ」
“ぼく”は彼の言葉を信じた。
 彼はこう言ったのだ。
「泉には、時折天上から天神様が舞い降りて来られるそうだ。こんなところで時間を潰している位なら、泉の傍でお告げを待っている方がよっぽど時間の使い方が上手い」
 そう言った彼は、半分は冗談のつもりだったのかもしれない。
 しかし、そのことを信じて何日も泉へ通い続けた“ぼく”にとっては、それこそが神のお告げだった。

 彼の言う通り、“ぼく” の前に天神は現れた。
 眩いばかりの光に包まれ、二対の黒翼を広げた天神の神々しい姿は、“ぼく”の目に焼きついた。
 天神は問い掛けた。
「そなた、地上人か?」
 呆けたままこくこくと頷くと、天神はふわりと泉の脇に舞い降りた。
「地上人には翼は生えておらぬのか?」
 またこくこくと頷くと、天神はふむと暫く考えた後、一体何をしたのかはわからないが、一瞬にして二対の翼を消してしまった。
「我が名はルシフェル。そなたの名は?」
 この世のものとは思えぬ美しい容貌の天神に目を奪われ、“ぼく”は瞬きすら忘れてなんとか返事をした。
「シ・・・シモン・・・」