「平気です。気にせず走らせ続けてください」
 朱音の顔色は何日も眠っていないヴィクトル王といい勝負かもしれない。
(魔王ルシファーの死はベリアル王妃の裏切りが原因だったんだ・・・。そして、クロウの魂のアースへの転生も・・・)
朱音は蘇ったクロウの記憶から、クロウのアースへの転生までの経緯を知った。
 現代の、舗装された道を車に乗って走るのとは訳が違い、酷い揺れと振動とで、朱音は何度も吐き気を催した。 
しかしここで弱音を吐くなどできる筈などなかった。今は一刻を争う事態なのだ。
 普通は三日はかかる道のりを明日までになんとかしなければならないのだ。でなければ、到着した頃には焼け野原と死体の山だけになったディアーゼ港の姿を拝むことになるかもしれない。



「ディートハルト・・・。悪いがすぐに戦地へ向かってくれ。魔笛艦隊が我領土内に侵攻するのは明日だそうだ・・・。沈めた船の数は三分の一にも満たかった。予定よりもかなりの勢力を残して乗り込んでくる。そなたが行くまでフェルデンが持ってくれれば良いが・・・」
 あの嵐の夜に船上で接触して依頼、朱音にはフェルデンの所在は一斉わからなくなってしまっていた。
 しかし、その後サンタシの白亜城まで無事に帰還を果たせていたようだ。
「ディートハルト・・・、フェルを頼むぞ。あいつはサンタシの最後の希望なのだ・・・! 決して死なせるな・・・!」
「ヴィクトル陛下、仰せのままに・・・」
 ディートハルトがひどく顔色の優れないサンタシの国王の前で礼の形をとった。
 フェルデンの無事を知り、ほっとしたのも束の間、彼は既にゴーディアの侵攻軍を迎え討つ為、騎士団を引き連れて王都の西、海に面したディアーゼの街に入ってしまっていた。そう、もっとも激しい戦場と化すであろう場所へと。