檻を背にもたれるような形で眠った為、身体のあちこちがぎしぎしと痛む。
 はっと息をのむ声が聞こえ、朱音は眠い目をこすりながらゆっくりと目を開けた。
「お姉ちゃん、女神様・・・?」
 まじまじと朱音を囲むようにして覗き込む子ども達に目を見張り、朱音は寝ぼけ顔で周囲を見回した。荷馬車の檻の上には巨大な布のようなものが被されており、布の隙間からは朝の日差しが差し込んで僅かに明るい。馬車はどこかに止められているようであった。
「え?」
 きょとんとして聞き返すと、子ども達は朱音の服をぎゅうぎゅうと摘まんでは引っ張り始めた。
「ねえっ、お姉ちゃん女神様でしょ? だって、神話の本に出てくるアルテミス様にそっくりだもん!」
 そばかすと赤毛の少女が目を輝かせた。
「へ? アルテミス?」
 朱音は起き抜けにほとんど理解できない頭で、思わず小首を傾げた。
「アルテミス様を知らないの? 月の女神様だよ」
 そばかすの少女はひどく驚いている。
 “月の女神”と聞いて、朱音はくすりと笑った。
(ああ・・・、このクロウの姿を見てそう思ったんだね)
 子ども達がその、月の女神アルテミスと勘違いするのも無理は無かった。クロウの父は魔王ルシファーで、天上界を追放されるまでは、神に最も近い存在である天上人、ルシフェルだった。即ち、レイシアの神話に登場する女神の姿絵が、天上人ルシフェルをモデルとしている可能性は大いに高く、その血を色濃く受け継ぐクロウの姿が女神に似ているという話も理解できる話だ。
「わたしはそんな立派な女神様なんかじゃないよ、朱音って言うの」
 零れ落ちそうな程の大きな瞳で、そばかすの少女がじっと朱音を見返してきた。
「アカネお姉ちゃん・・・? わたし、カロル・・・」