宿主は気のいい年寄り夫婦で、あの大男たちには手も足も出なかった。次々と乱暴に客室に入っては、身分証の無い子どもを片っ端から荷馬車へ詰め込んで行く。
身分証を発行してもらうには、ある一定の税金を支払わなければならない。しかし、この国にはまだまだ貧しい商人もたくさんいて、中には身分証を持たない子どももたくさんいるとボリスが話していた。
たった今囚われた子ども達は、きっとそうした事情を抱えているのだろう。
(どうしよう・・・!)
嫌な汗が背中を伝った。もうこの部屋に男達がやってくるのも時間の問題だ。
はっとして朱音はアザエルを見た。あの男達がこの部屋に来て、動かないアザエルを見れば、どういう行動に出るのかは何となく想像できた。
子どもを平気で掻っ攫い、売り飛ばす者達だ。死体であれなんであれ、売り飛ばして金目にしようとするに違いない。
朱音は横たわったままのアザエルの足を持ち上げると、ぐいと引っ張った。意識のある人間と違い、ぐったりと脱力した大人の身体は思うように動かせない。
男達の足音はすぐ近くまで迫っていた。
(お願い! 間に合って!)
顔を真っ赤にしながら、なんとかアザエルの身体をベッドから引きずり降ろすと、お尻をつかって全体重をかけてその身体をベッドの下へ押し込んだ。
『バンッ!』
アザエルの身体をなんとかベッド下に押し込むことに成功したと同時に、部屋の扉が蹴破られた。
「おっと、お嬢ちゃん、こんばんは」
片目に眼帯をした大男がにやりとベッドの脇でへたり込んでいる朱音に言った。
「こんな時間にこの部屋で一人かな?」
恐ろしさのあまり、朱音はがたがたと震え始めた。
「身分証を見せな」
ずかずかと近付いてきた男に、朱音ははっきりと答えた。
「わたしは旅の者です。だから身分証なんて持ってないです」
男はぶっと吹き出すと、
「どの子どもも皆同じ言い訳をするのさ。それなら、出身を証明できるようなもんを提示してみな」
と、朱音を見下ろした。
身分証を発行してもらうには、ある一定の税金を支払わなければならない。しかし、この国にはまだまだ貧しい商人もたくさんいて、中には身分証を持たない子どももたくさんいるとボリスが話していた。
たった今囚われた子ども達は、きっとそうした事情を抱えているのだろう。
(どうしよう・・・!)
嫌な汗が背中を伝った。もうこの部屋に男達がやってくるのも時間の問題だ。
はっとして朱音はアザエルを見た。あの男達がこの部屋に来て、動かないアザエルを見れば、どういう行動に出るのかは何となく想像できた。
子どもを平気で掻っ攫い、売り飛ばす者達だ。死体であれなんであれ、売り飛ばして金目にしようとするに違いない。
朱音は横たわったままのアザエルの足を持ち上げると、ぐいと引っ張った。意識のある人間と違い、ぐったりと脱力した大人の身体は思うように動かせない。
男達の足音はすぐ近くまで迫っていた。
(お願い! 間に合って!)
顔を真っ赤にしながら、なんとかアザエルの身体をベッドから引きずり降ろすと、お尻をつかって全体重をかけてその身体をベッドの下へ押し込んだ。
『バンッ!』
アザエルの身体をなんとかベッド下に押し込むことに成功したと同時に、部屋の扉が蹴破られた。
「おっと、お嬢ちゃん、こんばんは」
片目に眼帯をした大男がにやりとベッドの脇でへたり込んでいる朱音に言った。
「こんな時間にこの部屋で一人かな?」
恐ろしさのあまり、朱音はがたがたと震え始めた。
「身分証を見せな」
ずかずかと近付いてきた男に、朱音ははっきりと答えた。
「わたしは旅の者です。だから身分証なんて持ってないです」
男はぶっと吹き出すと、
「どの子どもも皆同じ言い訳をするのさ。それなら、出身を証明できるようなもんを提示してみな」
と、朱音を見下ろした。


