騒がしい市(いち)が街の中心地で開催され、リストアーニャは多くの商人や買い物客で溢れ返っていた。
「それにしてもすごい人ごみですね・・・」
 小柄のユリウスは人ごみが苦手だった。この身長のせいで他の者以上に人の波に飲まれやすそれで何度も痛い目を見てきたからだ。
 そして今回もそれは同じくして、既にユリウスを人ごみで酔わせていた。
「おぶってやろうか?」
 長身のフェルデンが見下ろしながらユリウスにそう言うと、ユリウスは目を吊り上げてつっけんどんに言った。
「おれよりちょっと身長が高いからって馬鹿にしないでください! いいですか、確かにおれはちょっとばかし身長は低い! けど、男としての器の大きさなら、殿下にも負けませんから!」
 ふんっと鼻を鳴らす小柄な部下を見て、フェルデンはぷっと吹き出した。
「ほら、見てください! 今だって何人かのレディーがすれ違い様におれを見てましたよ? やっぱりおれの男らしさは外面にも溢れ出てるんですよ」
 はいはい、といい加減な返事をしてフェルデンはもの珍しい屋台に目をくれる。
 美しい石を磨き繋げてアクセサリーとして陳列した店、リストアーニャの民族衣装で用いられる鮮やかな手染めの布々を売る店、旅に必要な小道具を売る店、中には怪しげな薬草を陳列する店まで。
「ちょっと、殿下ってば、聞いてます??」
 怒ったユリウスがフェルデンの顔を見上げたとき、フェルデンの足はぴたりと止まった。その視線はある一点をとらえたまま動かない。
「殿下?」
「あの男・・・! 間違いない・・・!」
 突如行き交う人々を押し退けて走り出したフェルデンの背中を、慌ててユリウスが追う。
「殿下! ちょっ・・・! 待ってください!」