ルイは突然言葉を詰まらせた。
「だけど、ロランはある日突然僕とアザエル閣下の前から姿を消しました・・・」
 ルイの肩が小刻みに震えている。
「ルイ・・・」
 朱音は震える少年の手をとり、優しく擦ってやった。
「ロランがどうして僕に何も言わずに消えてしまったのかはわかりません・・・。でも、風の噂でロランがサンタシの王に仕えていると聞いたときは、すごくショックでした」
 朱音は、サンタシにいたもう一人の双子、ロランのことを思い出していた。
 口は悪いが、人を簡単に裏切ったりするような少年ではない。そのことは鏡の洞窟で自分を元の世界へ返そうとしてくれたことから、朱音自身よく知っていた。
「辛い話をさせてごめんね、ルイ。でも、話してくれてありがとう」
 ロランにもきっと何か事情があったに違いない。
そしてこうも思った、鏡の洞窟で、アザエルがロランの命を絶とうとしたことは、今は話さないでいよう、と。

「こんばんは」
 突如窓から大人の男の声がして、ルイと朱音ははっと驚いて振り返った。
「クリストフさん!!」
 美容師として訪れていたときと違い、全身闇夜に紛れる紺のタイトな上下に身を包み、懐かしい揉み上げのクリストフが窓の枠を飛び越えて部屋に入ってくるところだった。
「お邪魔だったかな?」
 朱音はクロウの黒曜石の瞳を輝かせて、ふるふると首を横に振った。
「ううん! あなたが来るのを待ってた!」
 ルイは呆気にとられたように、朱音とクリストフのやり取りを見た。