「…よし、ここまで来れば大丈夫だろう」
目の前にある扉を開けると、そこは"屋上"と言われる場所だった
響古が、いつもここでお昼を食べるといっていた
ここから空が一番の近く見え、
驚くほど大きな石で出来た塊…ビル、という物や
黒い煙を吐き出す
車輪のついた怪物、車、というやつも存在しない
だけど、何もない
人もいなければ
家や、物もない。
端の柵から下を見下ろすと、地面を走り回る人間の姿が見える
そして、見晴らしがいいとは決して言えない高さだ
「…この時代は、本当に汚いものばかりだね」
オレの気持ちを代弁するように
紫が呟いた
フワリと
小さな風が吹いた
「そうだな…ここに翠でもいたら、風の言葉が分かったんだろうがな」
「そうだな。そう考えると、俺たちの能力は大したことないな」
「いや、紫の幻術はどう考えても誰よりも便利だ!」
オレは思い出して
腹を抱えて笑ってしまう
今、響古の鞄の中にいるオレ達は、
紫の作り出した幻
あの時、
響古がオレ達に術をかけるより前に
紫が響古の友達 杏に
術をかけていた
杏が見ている幻が
そのまま響古を含む周囲の人間に見えている

