「紫さん…ってさ」
「紫さん?」
少しうつ向いたまま、
心ここにあらず的な
でもモジモジした
いつもの、男勝りで強気な杏じゃない
そんな杏から出た
紫さんの名
「紫さんが、どうかしたの?」
「…どう思う?紫さんのこと」
チラリと
下から覗きこむように私を見る
「どうって、何が」
「だから…もう。分かるでしょ!」
しびれを切らしたかのように
ぐいっと私に近づく
「ど、どうもなにも…」
というか、触れる距離の鞄の中に
二人がいるんだけど…
「大人っぽいなって、思うよ。紅と違って、落ち着いてるし」
紅に聞こえないよう、ポソリと呟く
聞こえちゃったりしたら、
叫んで、飛びかかってくるかもしれないし
「確かに、紫さんは大人っぽいね…すごく、綺麗で…」
杏が頬杖をつきながら
ぼーっと空を眺めて呟いた
「でも…」
「でも?」
首をかしげる
「紅くんに比べると、冷たい」
「冷たい…まあ、確かに。」
紫さんは確かにそうだ。
出会ったばっかの時も
紅みたいに感情的にならない反面
物凄く、他者を突き放す…
「そういえば!」
ぱっと、杏の表情が明るくなる
「さっき、紅くんも大きくなってたけど、なかなかカッコ良かったねえ!!!」
「ああ〜…さっき廊下であったときかあ」
「なんか、響古と紅くん、お似合いだったよ〜」
「は、はあぁ?!?!」
バッ と
クラスのみんなが私を振り返る
…かなり大きな声で叫んでしまった…
先生がまだ来ていなかったのが、
不幸中の幸いだ
「…いきなり、何言うのよ」
「いや、ホントに思ったんだもん」
杏はニッコニコしている…

