「いや、飼ってないよ。犬と猫は好きだけど、どっちも毛のアレルギーがあるから俺は飼っていない」
――じゃあ、梨杏の空耳?私、かなりの重症かもしれない………。
真剣に悩んでいる二戸 梨杏。
中村先生の視線の前を何かが跳びはねながら横切っていく。
ピョンピョコピョーーン。
糸の様に細くて長い2本の触覚、光沢のある茶色い背中、切れのあるジャンプ力。
それほど大きくないつぶらな体。
「おいっ!コラッ、跳ぶな、待てよ!」
中村先生が両手を伸ばして捕まえようとするが…。
跳びはねる、跳びはねる。
――何が、跳びはねているんだろう?
中村先生の背中から顔を少しだけ出して興味深く見ている二戸 梨杏。
「先生、……ゴキブリ?」
中村先生が小さく顔を横に振る。



