中村先生がズボンのポケットに手を入れる。
「俺がいいよって言うまで、絶対に目を開けるなよ」
目を瞑ったまま返事をする二戸 梨杏。
「うんっ」
「もう、涙は流すな――」
二戸 梨杏の頬に軽く手を添える中村先生。
ヒャッ、中村先生、目の周りくすぐったいよ!!
何してるの――?
中村先生がさっきズボンのポケットに手を入れて取り出したのは白い絹のハンカチだった。
――薄明かりの街頭の下で気付いた二戸 梨杏のパンダになっている目。
別に、俺ん家までこのままでもいいかなって思っていた。
だけど、何度か二戸の顔を見る度に可哀想でたまらなくなり。
――涙で崩れたアイメイクをハンカチで綺麗に拭き取ってやろうと思った。
ズボンのポケットに手を入れて白いハンカチを握りしめた時、一瞬今日の昼休みの記憶が蘇る。



