「私、この席なんですよ。音楽の時」
今うちが座っている席を指差した。
「多分、音楽の時に持ってきて忘れちゃったんです。この本、机に入れっぱなしで」
「そうなんだ」
この子がいきなり話し始めたことにもびっくりだが、何が言いたい話なのか先が気になる。
「そしたら、そこの机の隣の人もやってたんですよ。誰だかわからないんですけどね」
隣の席って…。
もしかして…
でも…そんな偶然ないよ。
他にもこの席に座っている人なんてたくさんいるんだから。
全学年の全クラスが使う音楽室なんだし。
「ほら。見てください」
女の子は颯がいつも座っている机を指でなぞった。
指の先を見ると、乱暴に消しゴムで消された跡が残っている。
キーンコーンカーンコーン…
突然、チャイムが鳴った。
女の子は慌て始めた。
「鳴っちゃったんで行きます」
小さくペコっとお辞儀をし駆けていった。
「ねぇ!」
音楽室を出ようとしている女の子を呼び止めた。
振り向き、小さくはいと言った女の子。
「名前は?」
「1年の姫野花恋です」
「ありがとう。花恋ちゃん」
そう言うと、花恋ちゃんは微笑み今度は本当に音楽室を出ていった。

