「でもね、ここ最近人・・・・特に女を見てなかったから今は新鮮な気分だわ。ゆっくり話したい。この足じゃあろくに外も歩けないもの」
虚ろな目に少しの歓喜が滲むのが分かった。
「今、貴女が欲しい物は何ですか?」
ゆっくりと隣に腰を落ち着けて、目線を合わせ喋る。
「そうね・・・・・・物と言うか、・・
両親?私は両親の顔が見てみたいわ。」
「見たことが無いの?」
「見た事無いって言うか、覚えてないだけ」
薄い布の下から細い骨のような足を伸ばす女。
血管が浮き出て今にも折れそうだ。
「私は、元々軍人でした。」
「ハッ?!」
「ですが、少々色々ありまして娼婦へと変わりました。」
「どんな色々よ!」
にこりと笑う香織。
「貴女の気持ちが良く分かるんです。何で男性に従わないといけないのか・・・・ずっと、憎しみを込めながら生きていたのを覚えています」
隙間や穴が開いている壁から外を見る。
冷たい風が身に凍みた。
「恋、をした事がありますか」
「恋?男を好きになんてなれそうにないわ・・・」
「良いですよ、恋って。世界が変わるんです。その人の為に生きたいと思えるし、救いたいとも思える。自殺しようとしていた私が人を助けたい、だなんて想像もしませんでしたが」
口元が緩み、女に笑いかけた。
「・・・・・・そうねぇ・・・・・・昔喋った女も言ってたわぁそんなようなこと。」
長い髪を指で絡め取り、弄る。
「でも私は・・・・今、こうなった元凶の東部政治家が憎いわ。もうそれしか怒りのぶつけ様が無いもの・・・」
がり、と女は床を引っ掻く。

