とても保険料を払える余裕などない。第一、保険に入ろうにも、私には住所もない。

どうせ出産には保険が利かないのであれば、このまま臨月まで待って、どこかの病院で産んで、すぐに退院するしかない。

「はい、そうします」

思惑とは裏腹に、私はそう答えていた。


会計をするとき、計算書と領収書のほかに、一枚の写真が手渡された。


胎児のエコー写真だ。


まだ医師の説明がなければ、どこが自分の子供なのかはわからない。

が、それでもここには、まだ見ぬわが子が写っているのは確かだった。

「ありがとうございます」

私は一礼してその写真を手に取ると、それを胸にあてて病院をあとにした。



夜になって冷えてきた風に吹かれると、頬に冷たい感触がある。ビルの光がどうりで滲むはずだ。


でも嬉しかった。こんな涙を、いつの間にか忘れてしまっていたのだから。