つぎの瞬間、私の体が硬直する。

息を呑んだ私の顔を見て、その作業員は手をとめた。


男の無骨な手を、


(こ……わい)


私の本能が拒否していた。

持っていた椅子が床に落ち、狭い廊下に耳障りな金属音を響かせる。

無意識に私は飛びのいて、壁にはりついていた。その手から逃れるように。

頭が割れるように痛い。

思わず腰が落ちた。

その刹那、昨夜の出来事ひとつひとつが、暴虐な爪あとを残しながら脳裏を駆け抜ける。

つぎの瞬間、胸の奥でせき止めていた感情が、切って落とされた。


「いやあああ!」


狭い廊下に響くその叫びに、かたわらの作業員は身をすくませた。

なにも考えられない。

ただ、色んな感情がないまぜになって、私の頭の中で渦巻いている。


男性恐怖症──


昨日の事件は、私にも予測できない傷跡を残していた。しかも、かなり深い。


「あの、すいません。何か気にさわりました?」

ことの対応を読めない作業員は、顔を蒼白にさせて距離を置いていた。私はその言葉で我に返った。

「あ……いえ」

見渡すと、幸いこの通路には他に作業員がいなかった。

下手をして帰されてはたまったものじゃない。