私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

私はすぐに加藤の部屋のドアを開いた。が、そこには雑誌が散らばっているだけで、いつも持っている派手なバッグも化粧品類もなくなっている。


(飛んだ……)


派遣会社では、勝手に辞めてどこかへ行くことを「飛ぶ」と表現する。

問題はその辞めるときだ。多くは同僚に借金したり、お金になりそうな備品を盗んでいったりする。


私はすぐに事務所へ連絡した。


「800……43円」

小銭をためていた貯金箱に入っていたのはこれだけだ。

そして、駆けつけた中村が開口一番に言ったことは

「ちゃんと金は管理しとけよ」

だった。

自分の部屋なのだ。これ以上どう管理するのだろう。

こんな人間と同室にした会社側に問題があるのではないだろうか。しかも、私は部屋を変えてくれと申請していたのだから。


「ま、たった2万で良かったじゃないか。給料前払いも出来るしな。こんなこと日常茶飯事だから気にするな」


そう言って私の肩を叩くこの男には、その2万円の重さのかけらもわからないだろう。


「そんなの……会社が補償してくださいよ」


怒りを抑えきれずにそう言った。

が、中村は馬鹿にしたような目を剥いて、口元をほころばせて反論してきた。


「お前馬鹿だろ。自分の部屋で盗られた金をなんで会社が補償するんだよ。ちったあその少ない脳みそで考えてみろ」

「こんなことが日常茶飯事なら、会社はその防止をするのが当然じゃないですか」

「プライベートのことまで会社が責任持てるかよ」

「プライベートって……じゃあ、あんたもプライベートにまで干渉してこないでよ。口を開けばメシメシって、馬鹿じゃない?」

「な……」


反論できなくなったのが悔しかったのか、中村は猛然と歯を剥いて食って掛かってきた。