最初は自分のことではないだろうと無視していたが、二度目にその声を聞いて振り返った。

「私ですか?」

「はい」

そこに居たのは、自分と同じくらいの年の男性だった。

何の用事だろうと考える間もなく、その男は名刺を差し出してきた。


(フリーライター……相沢)


その名刺に書かれていた肩書きだ。


「実はネットカフェ難民の取材をしてまして。あなたはもしかしたら、ネットカフェ難民ではないですか」


そんな名称は世間が勝手につけているだけで、自分たちは難民になったつもりなどさらさらない。


「いえ、違ってたらすいません。いちおう取材費として2万円をお支払いしますよ。それと今日はホテルでの宿泊も用意させていただきます」


そんな話があるのだろうか。

しかし、2万円という言葉もさることながら、久しぶりにのびのびとベッドで眠れるのは魅力だった。


「あの……ネットカフェ難民です」


私は恥ずかしげもなく、そう答えていた。