私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

(ん……)


妙な息苦しさを感じて薄目をあけると、目の前に中村の顔がある。それも息がかかるほどの距離だ。


「きゃああ!」


思わず叫び、その顔を押しのけた。

心臓が跳ね上がり、恐怖で体は硬直する。

ここは確かに私の部屋だ。そこになんでこの男がいるのだろう。


(コイツ、どういうつもりで)


体を起こし、荒い息のまま中村を睨み据えた。


「いま何時だと思ってんだ。お前が出勤してこないからな、心配で見に来たんだろうが」


たじろぎながらも、中村はそう言って自らを弁解した。


「何時って……」


手元の目覚まし時計を確認すると、すでに8時50分。完全に遅刻していた。が、携帯の着信履歴を確認しても、詰所からの連絡は入っていない。

「先に電話で連絡してくださいよ」

「だいぶ疲れてたみたいだからな、電話じゃ起きないと思ったんだよ」

「それでも……」

玄関のチャイムくらい鳴らしたのだろうか。それすら分からないほど前後不覚に眠っていたのだろうか。


少し冷静になると、唾臭い臭いが鼻をつく。

思わず口に手をあてると、手のひらがべっとりとした粘液で濡れた。



(何これ──)