私たちはすでに使い捨ての人間なのだ。使い物にならなくなれば切り捨てられる。気に入らなければ簡単に弾かれる。
あの時も同じだった──
「おい、雪。ちょっと来い」
仕事が終わり、着替えて帰ろうとしていた矢先のことだ。詰め所の横を通り過ぎようとしたとき、中村が声をかけてきた。
(なんで下の名前を呼び捨てにしてんのよ)
呼ばれるたびにムっとする。
だが、この男は自分が狙っている女子社員に対しては、必ずこうして下の名前を呼び捨てにするのだそうだ。長く勤めている女子社員からそう聞いていた。
それを考えるだけで、全身に虫唾がはしる。
「お前さ、寮の移動を事務所に頼んだろ」
「はい。同室のひとが最悪ですから」
「なんで俺に言わないんだ」
お前だから言わないで、直接事務所に言ったに決まっている。
「忙しくて詰所で話できないくらいなんでしょ」
これには皮肉がたっぷり入っている。が、奴にはそんなことすら分からないらしい。
「だから、メシでも食いながら話しようって言ってるだろ」
メシメシと、こいつはそれしか言わないのか。
「この工場を出たら仕事は終わりですから、外でまで仕事の話したくないんですよ。なんで詰所では話も出来ないんですか。他のひとはしてるじゃないですか」
「馬鹿だなお前は」
中村はそう言うと、顔を近づけてきて小声でつぶやいた。
「他の人間に聞かれたら、お前をひいきしてるのが分かるだろ」
「そんなことしてもらわなくて結構です」
「じゃあ寮の移動もなしだな」
「なんでよ」
「俺がお前の工程の担当だからな。俺が責任者だからだ」
「じゃあ工程変えてくれます」
ここまでしつこいと、私だっていい加減キレる。
あの時も同じだった──
「おい、雪。ちょっと来い」
仕事が終わり、着替えて帰ろうとしていた矢先のことだ。詰め所の横を通り過ぎようとしたとき、中村が声をかけてきた。
(なんで下の名前を呼び捨てにしてんのよ)
呼ばれるたびにムっとする。
だが、この男は自分が狙っている女子社員に対しては、必ずこうして下の名前を呼び捨てにするのだそうだ。長く勤めている女子社員からそう聞いていた。
それを考えるだけで、全身に虫唾がはしる。
「お前さ、寮の移動を事務所に頼んだろ」
「はい。同室のひとが最悪ですから」
「なんで俺に言わないんだ」
お前だから言わないで、直接事務所に言ったに決まっている。
「忙しくて詰所で話できないくらいなんでしょ」
これには皮肉がたっぷり入っている。が、奴にはそんなことすら分からないらしい。
「だから、メシでも食いながら話しようって言ってるだろ」
メシメシと、こいつはそれしか言わないのか。
「この工場を出たら仕事は終わりですから、外でまで仕事の話したくないんですよ。なんで詰所では話も出来ないんですか。他のひとはしてるじゃないですか」
「馬鹿だなお前は」
中村はそう言うと、顔を近づけてきて小声でつぶやいた。
「他の人間に聞かれたら、お前をひいきしてるのが分かるだろ」
「そんなことしてもらわなくて結構です」
「じゃあ寮の移動もなしだな」
「なんでよ」
「俺がお前の工程の担当だからな。俺が責任者だからだ」
「じゃあ工程変えてくれます」
ここまでしつこいと、私だっていい加減キレる。



