私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

「その卵、どうしたんですか」

そのどんぶりにぽっかりと浮かんでいる卵だ。


石川はまったく聞こえないふりをしてテレビのボリュームを上げた。お笑い芸人が必死にギャクを繰り返すのをみて、

「ぐっぐっ」

と、太い笑い声をあげている。


この前はちくわが抜かれていた。その前はウインナーだ。

こっちだって食費すらギリギリなのだ。こんな女に奉仕してやるほど心とふところに余裕があるわけではない。

「聞いてます?」

これでも私にとってはかなりドスをきかせたつもりだが、石川にとっては全く意に介さない程度のようだ。

ずるずるとスープを吸い込むと、私の卵をつるりと飲み込んで、満足げな声をあげた。


(この腐れトドが!)



私はあきらめて、お風呂へ入ることにした。

しかし、そこでもまた頭にくることがある。


(ちょっと、シャンプー)


ポンプを押すと、最後の泡が飛び出した。

そんなはずはない。先週注ぎ足したばかりだ。

と、隣に並んでいるもうひとりの住人のシャンプーのポンプを押すと、そこから出てきたのは私が使っているシャンプーだった。


(こいつ、またパクリやがった)


先月はリンスが無くなっていた。その前はボディソープ。