都内の一軒家に高級外車。息子は有名私立高校に通い、部屋のなかは高価な家電で満たされている。


それらの金額をつい計算してしまう浅ましい自分に嫌気が差して、その本を棚に戻した。



「名前、言って」

集合場所の駅前で、同じ派遣のリーダーが名前のチェックを始めた。

集まっているのは8人。

今日は若い人たちばかりで占められていた。どうやら全員同じ大学に通っているのか、和気あいあいとした雰囲気だ。

「海野です」

名前を告げると、その男はボールペンで名簿をなぞりはじめた。

「海野さん、海野さん……ないね」

「え……」

「名前入ってないよ。はい、次のひと」

「ちょ、ちょっと待ってください。昨日予約したはずです」

「知らないよそんなこと。事務所に言ってくれるかな」

男は私を無視して、人員の確認を続ける。


(なんで……)


携帯で派遣会社から送られてきた就労管理メールを見たが、確かに今日、この場所での集合になっている。


私はそのまま事務所へとダイヤルした。