二年前に踏み込んでしまった派遣生活。

それから始まった屈辱と不安な生活。


(ひどいとこだったな……)


記憶の中で、その派遣会社は苦い思い出でしかない。

しかし、そのどんよりとした不安は、この狭いブースにも満ちている。いや、当時よりもさらに大きく重い。

ときどき胸を押しつぶされそうになり、息も出来なくなることがしばしばある。


体も精神も、自分で

(よく持つなあ)

と、関心する。


たぶん独りでは、どこかで折れてたかもしれない。

色んなものを失った末に、私のお腹に宿ったこの子がいなければ……



パソコンのスイッチを切り、椅子のリクライニングを倒して目をつむった。

しかし、体は疲れてるのに眠れない日がたびたびある。今日はどうやらその日のようだ。


色んなものに対する不条理にやるせなくなったり、仕事に対する怒り、そして見えない未来に想いがいたると、とたんに重苦しい空気に満たされて、眠ることが出来なくなった。


(明日はティッシュ配りか)


普段より拘束時間は短い仕事だ。多少の寝不足は大丈夫だろう。

こんなときは漫画を読むに限る。

ボックス席から外に出ると、読みかけの少女漫画をとりに行く。

独り暮らしの女子大生が、バイトの家庭教師をやっていて、その生徒と父親とのドロドロの恋愛に溺れてゆくというものだ。

これでも少女漫画か? と、疑いたくなるほど、きわどいシーンが盛り込まれている。


しかし、読んでいて思うことは、こんな情事に身を焦がしてみたい──


なんてことじゃなく、


(なんでこんな裕福な生活なんだ?)


という疑問。