私は翌朝のシャワーの予約をすると、空いている狭い空間に体を潜り込ませた。

時間は午後11時ジャスト。

この時間から深夜パックが適用されるのだ。だからこの時間は、ちょっとした混雑となる場合も少なくない。


目の前のパソコンとテレビのスイッチを入れると、暖かいスープを取りに席を立つ。

小さなカップに注がれるコーンポタージュはおかわり自由だ。それを私は何杯もおかわりをする。

これが今夜の夕食だから仕方ない。

そして、明日の仕事に合わせて携帯のアラームをセットすると、借りてきたブランケットを肩からかけて足を伸ばした。


ウトウトしながら短い夢を見る。目が覚めればまたすぐに仕事だ。

何も楽しいことなんか、ありはしない。

毎日がこんな繰り返し。こんな生活がいつまで続くのだろうか。私に未来はあるのだろうか。

そんなことを考えるだけで胃が痛くなってきた。

(もう寝よう)

そして今日という一日は幕を閉じた。



こんな私でも、たった2年ほど前までは大手の旅行会社に勤めていた──



「海野さん、西芝電機の吉岡さん。航空券まだ取れないのかって電話かかってきてるけど」

営業担当の男性社員が、また頭の痛くなる用件を押し付けてきた。

年末の航空券をギリギリになって予約してくるなど、無謀にもほどがある。しかし、営業としては、得意先だけに断ることも出来ずに、

「何とかやってみます」

くらい言ってしまったのだろう。今日だけでも3回目の催促だ。

「ちょっと待ってよ。家族4人分だなんて、よくそんな無茶を引き受けたわね」

航空券予約端末を打つ手は、休むことがない。

次から次へと入ってくる予約をさばきながら、私より二年後輩の営業マンへ、顔も向けずに文句を言った。

「お願いしますよ。神様仏様、海野さま」

まったく、こんな時だけ営業マンの顔を見せて腰を低くする。普段はえらそうな口ばかりきいているくせに。