「……ん……まあ、そんな感じ。バカでしょ、私」

なんだか鼻がむず痒い。鼻をひとすすりすると、思わぬ大きな音が出た。

「ダメ人間って言われて……ホント、こんなんじゃダメだ」

視界に映る夏子さんの顔が滲んだのを見とめて、私はいつの間にか涙があふれていることに気づいた。

「お腹蹴られて、言うこと聞かないと子供を殺すって……だから私」

「雪……」

あの夜はさめざめと泣いた。そして朝が来ると、自分の中で決着をつけたのだ。


(私にこれ以上堕ちる場所はない。だから前だけを向いていこう)


……と。


それなのに、胸の奥にしまっていたはずの感情が次から次へと噴き出してくる。


悔しさと悲しみと怒り。


何もかもあの夜のままだ。私は何も吹っ切れていなかった。ただ、無理やりしまいこんでいただけだったのだ。


「お金が無いって……悪いことなんですか?」


夏子さんは、無き濡れた私を包みこんでくれる。そして頭をなでてくれた。

それはずいぶんと昔のことだ。母が泣き止まない私をあやしてくれた温かさに、どこか似ていて、さらに涙があふれた。


「そんなことないよ。雪は一生懸命生きてるじゃない。胸を張れるよ」

「だって……みんな私を見下して……いじわるばかりで……助けてくれる人は居なくなっちゃうし」

「大丈夫。今は私がいるじゃない」

「私、生きてていいのかな……ホントにダメ人間じゃないのかな」


泣きじゃくる私を、夏子さんの腕が力強く抱きしめた。


「当たり前じゃない。真面目に生きてきたからこんな生活してるんでしょ」


そう言って頭をまた撫でてくれた。

私は何度もうなずきながら、その手の温もりに母を重ね合わせてまた泣いた。