しかし、そうではなかった。

それは夏子さんからの質問で気付くことになる。


「どうしてこんなことになったか、原因があると思うんだけど……力になれるかどうか分からないけど、話せるようだったら話してみない?」

「原因っていうかさ、どうなんだろ。やっぱそうなんだろうけど……」


私はすこしおどけたふりをして言葉を探した。

あまり重く受け止めるのもどうかと思ったのだ。普通の暮らしをしている人たちと私たちは違う。

あんな事件にいちいちこだわっているような甘ちゃんとは思われたくないし、哀れみを向けられるのはさらにゴメンだ。

侮蔑の目で見られるのも確かに嫌だが、かと言って哀れまれるのはもっと嫌なのだ。

自分勝手かも知れないが、それが正直な私の心中だった。


だから、言葉に迷った。


「んっとね、だまされたのね、変な男に」

「だまされたって?」


夏子さんの目が険しさを増した。私はその視線を遮るように手を振って、話をなるべく軽く見せようとした。


「取材させてくれって、ネットカフェ難民のね。でね、取材費払うからって話で」

「それで、どうしたの」

「やだ夏子さん、そんな大したものじゃないし。なんていうのかな、ホテルに宿泊させてくれるって言うからノコノコついて行って……」

「まさか、乱暴されたの?」