こんな街中で声を掛けられるのは心臓に悪い。いつも闇金業者に怯えながら歩いているのだ。


「雪……だろ」


振り返った私の前に突っ立っていたのは、そう、ずっと以前は私の恋人だった男──


「一郎……」


そして、一番会いたくない男でもあった。



私は変わっただろうか。


「ビックリしたよ、こんな所で会うなんて」


一郎の目が、私のつま先から頭へと移動するのがわかる。

ブランド品のブーツは、薄汚れたスニーカーになり、豪華なファーをあしらったコートは、2980円で買ったスーパーの特売品のダウンジャケットに変わっている。


「なんか……雰囲気がかわったな」


それを言われるのは辛かった。


「一郎は変わってないのね。元気だった?」

「ああ、俺は相変わらずだよ。それよりお前は……」

「見れば分かるでしょ。ちゃんと生きてるよ」


現実には生きている実感が無い。それでも確かに、私は生きているのだ。