「言われるこっちの身にもなってくれっての」

千円札を数え終わると、それを放るように私の前に投げた。

「仕事もらえてるだけでさ、感謝してもらわなくちゃね。頼むよ、マジで」

朝の9時から、夜の9時まで働いた給料は、たったの8250円。これから交通費と昼食代を引けば、さらに1000円は経費で飛んでゆく。

(あんたさ、誰の稼ぎで食わせてもらってんのよ)

なんでこんなピンはね屋に、上から目線でモノを言われなければならないのだろう。

ピンならまだ良い。

ピンとは一割を指す。昔は稼ぎの一割をハネるという意味で、ピンはねと言われたそうだ。

今はどうだ。

平均で4割以上を中間搾取される。今日、私が働いて派遣先から入った報酬は、13000円にもなるのだからたまらない。

少しお金に余裕のある人間は、雨後のたけのこのように次々と派遣会社を設立してゆく。

そして、お金がたまらない程度の給料を与え、生かさず殺さず報酬を搾取し続けるのだ。

これほど格差社会是正と唱える政府は、さらに派遣の規制をゆるめる方向で動いている。私たちに未来などあるわけがない。


一度でも人生につまづくと、そこから一生這い上がれないシステムが出来上がってしまった。


その私たちの犠牲の上にあぐらをかいている連中に、どうしてこんな大きな顔をされなければならないのだろうか。

腹ワタが煮えくり返る思いで、事務所をあとにする。

明日は時給も安く、労働時間も短いティッシュ配りしか仕事はなかった。



いつものネットカフェの前まで来ると、突然うしろから声を掛けられた。