「家はあるの?」
これだけ人が集まっていても、ほとんどの人たちはあまり言葉を交わさない。
長くやっている人たちや、仲間同士で入ってきた人たちが、たまに喋っているくらいだ。
そんな静かな場所では答えにくい。
「ええ、まあ」
と、曖昧に答えていた。
見ず知らずの人間に、ネットカフェで寝泊りしてるなど言えるわけがない。それほど落ちぶれているつもりはなかった。
「そう、それなら良いけど」
その女性はそのまま口を閉じてしまった。
化粧っ気のない、色白というより蒼白な顔をした女性だ。年は私より10歳は上だろう。
だとすれば、40歳に届くか届かないか、と言ったところだ。
(家計が大変なのかな)
パート代わりに働いているのだろうか。それにしては、この雰囲気に随分慣れているように見えた。
「今日の現場でさあ、クレーム来てんだよ。先方さんと何かもめたんだって?」
給料をもらう番が回ってくると、派遣会社の社員が険しい顔を見せる。
私は黙っていた。文句を言われる筋合いはないはずだと信じている。



