私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

話にひとくぎりついたところで、私は話を変えた。


「ところで夏子さんは、なんでネカフェで寝泊りするようになったんですか?」

「あたし?」


聞いてはいけないことだったのだろうか。夏子さんの表情が一瞬凍って見えた。


「あ、すいません、聞いちゃ悪かったですか」

「いや、そんなこともないけどさ……まあ、DVってやつね」

「DV……」


私にはちょっと想像しにくかった。

先ほど、闇金業者の男をビール瓶でぶん殴った勇気といい、色んな知識を持っている頭といい、そんなことくらいで家を飛び出すようには見えなかったのだ。

「DVってさ、結構辛いのよ。痛みと恐怖だけじゃなくて、なんかね、情けなかったり、悲しかったり……夫に対しても、自分に対しても」

「それで離婚して……」

「いやあ、それがまだしてないのよ。だから住民登録したら旦那が追っかけてくるじゃない。今度こそ、たぶん殺されるね」

「じゃあ、離婚成立したらちゃんとした生活に戻れるんですね」

「さあ、それは……」

そこまで言うと、夏子さんは遠くを眺めるような表情を見せて、口をとじた。