私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

「あれが二重派遣。あいだに何社も入ってるから、そのぶん中間マージンを差っぴかれてんの」

「ええ、そんなことしてるんですか!」

「一社につき時給で50円とか100円。ひどいところでは200円も抜いてるよ」

ただでさえ中間搾取がひどい派遣労働で、そんなところまで搾取されてるとは知らなかった。

これじゃ、どれだけ働いても、誰を喜ばせるために働いているのかわからなくなる。


「ちょっと話そうか」


夏子さんがそう切り出してくれたので、私は冷蔵庫に飲み物を取りにいった。

知り合ったのも何かの縁だ。夏子さんはこの業界に詳しいようで、その知識に興味があったし、なによりも夏子さん自身にも興味があった。


二重派遣の実態というものは、ひどい話だった。

企業が人員を確保するために派遣会社に頼んだ場合、要求した人員が多すぎると、その会社がまた別の会社に人員の確保を頼む。

その結果、二社、三社と間に派遣会社が名前を連ね、それぞれが中間マージンを搾取するのだという。

そして末端の派遣会社よりも、むしろ企業に一番近い位置で中間マージンを取っている会社が、じつは派遣登録をしていない、単なる下請けとして工場に入っている会社が多いのだそうだ。

「え、それって違反じゃないの」

「違反だらけよ、派遣業やってる会社なんて」

「そんな違反って取り締まれないのかな」

「何件かしょっぴかれてもね、今度は法律改正で合法に変わるのよ。経団連とかのオッサンどもの圧力でね」

なぜそれほどまでに、ワーキングプアと呼ばれる私たちを徹底的に虐げようとするのだろうか、この世の中は。

「なぜって?」

疑問をかかえる私に、夏子さんは言葉を続けた。

「時給が安かったら企業は儲かるけど、働き手は来なくなるよね。でも、明日も見えない人たちにとっては、それでも最後の砦に見えるからね。いったん正社員って道を踏み外した人間が立ち直れないように仕組まれてるんだよ」