私はダメ人間じゃない~ネットカフェ難民の叫び~

そのとき、鈍い衝撃音とともに、男の力が抜けた。

とっさに男をうかがうと、白目を剥いたままアスファルトに崩れてゆく。

かたわらにビール瓶が地面をころがった。

「逃げるよ!」

背後から飛ぶ声は、女性のものだ。その声と同時に、私の腕は力強く引っ張られた。


私はその声に飛びつくように地面を蹴った。


うしろ姿しか見えないが、おそらく私の知っている女性ではないだろう。

(誰だろう)

という疑問が無いわけではなかった。

それでも彼女について逃げるしか、道は残されていない。


「おい、コラあ!」

乗り付けたベンツの中から怒声が飛んだ。

私たちは振り向きもせず、車の入ってこれない狭い道へと駆け込んだ。酔っ払いの男たちが、その勢いにつぎつぎと身を引く。


後ろで激しくタイヤの鳴る音が聞こえた。車で先回りするつもりだろう。

前を走る女性もそれに気づいているようだ。脇にそれる路地に身を躍らせると、今度は妖しく賑わう道を駆け抜けた。


ピンク色のネオンが飛ぶように後ろへ流れてゆく。


私は走った。


苦しさと疲労で思考することもなくなるほど、走りつづけた。