私はダメ人間じゃない～ネットカフェ難民の叫び～

私はできる限りの金切り声をあげて、助けを求めた。

少なくとも男は動揺するはずだ。その隙をついて逃げられるかも知れない。

しかし、足元がずっと震えっぱなしだ。うまく走れるかは自信がなかった。


「おいおい、そんなことで誰か助けてくれると思ってるのか」


ヒリヒリする喉で咳き込んだ私は、その落ち着いた声に目を見張った。


「甘いんじゃねえの、お前」


道行く人々は、一瞬目線を向けるものの、男の風貌を見るなり、足をはやめて通り過ぎてゆく。

誰一人として、救いの手を差し伸べてくれる人間はいなかった。


そうだ。私たち日雇い派遣労働者は、いつでも自分ひとりの力で道を切り開かないと、生きてゆくことはできない。

そんなことは、分かりきっていたことだ。



通りの向こうから、激しいクラクションが聞こえてきた。道行く人々を跳ね飛ばしそうな勢いで、一台の白いベンツが姿をあらわす。


（もうだめ……だ）


必死にもがく私を、男は薄笑いを浮かべながら捕らえて離さない。